東京高等裁判所 平成6年(行ケ)193号 判決
東京都千代田区二番町11番地5
原告
株式会社細川洋行
同代表者代表取締役
細川武夫
東京都千代田区九段南2丁目2番4号
原告
ニチバン株式会社
同代表者代表取締役
高綱基裕
原告両名訴訟代理人弁理士
石川泰男
同
細田益稔
同
岸本達人
原告両名訴訟代理人弁護士
潮谷奈津夫
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
同指定代理人
園田敏雄
同
前田仁
同
幸長保次郎
同
花岡明子
同
吉野日出夫
同
関口博
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告ら
「特許庁が平成5年審判第12051号事件について平成6年7月5日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告らは、昭和62年3月19日、名称を「包装袋」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願(実願昭62-40773号)をしたが、平成5年4月22日拒絶査定を受けたので、同年6月17日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成5年審判第12051号事件として審理した結果、平成6年7月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年7月27日原告らに送達された。
2 本願考案の要旨
外側プラスチックフィルムと少なくとも1枚の内側プラスチックフィルムをラミネート接着剤を介して積層したプラスチックラミネートフィルムを矩形状に裁断して包装袋素材を形成し、この包装袋素材を折曲げ成形するとともに接合端部をヒートシールして筒状部を形成し、この筒状部の上下開口端をヒートシールした包装袋において、包装袋の折曲げ部にバリヤー性を備えた開封容易部を設け、この開封容易部は、包装袋素材の外側プラスチックフィルムの積層境面に開口する複数の貫通孔より形成した粗面部と、外側プラスチックフィルムと内側プラスチックフィルムの積層境面に設けられプラスチックラミネートフィルム形成時に粗面部の貫通孔を充填するラミネート接着剤のプラスチック材料とで構成したことを特徴とする包装袋。
3 審決の理由の要点
(1) 本願考案の要旨は、前項記載のとおりである。
(2) これに対して、米国特許第3,608,815号明細書(クラス、229)(以下「引用例」という。)には、包装袋である包装品用の開封補助機構に関するものであり、明細書中には次のような記載がある。
〈1〉「本発明の主要な目的は、延伸材料のみから構成されるか延伸材料を含む材料から成形された、包装品に用いる使用者が包装品を引裂きやすくする開封補助機構を、材料及び包装品が有する、厳しい製品の味や鮮度を保持する特性を保持したまま、・・・形成できるフィルムを提供することにある。」(1欄9~17行)
〈2〉「開封補助用の穿孔パターンを2種以上の材料に設けるのが望ましい包装材料または条件では、穿孔パターンの位置を材料の個々の穿孔が並ぶのを防止するように近接させることにより、複合材料の必要とされる製品保持つまり大気遮断性を確保する。・・・第11図には・・・ウエブAパターン16の穿孔はウエブBのパターン16の穿孔の間に位置しているので、・・・ウエブBがウエブAの穿孔を閉鎖し、逆にウエブAがウエブBの穿孔を閉鎖している。」(2欄53~64行)
〈3〉「ウエブ1は少なくとも1種の延伸材料から構成されているが、複数の積層延伸材料の積層ウエブ、または・・・、および他の包装材料と積層したものから構成することもできる。」(2欄3~8行)
〈4〉「この種の延伸材料の例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、・・などが挙げられる。」(同18~20行)
〈5〉「パターンの穿孔を形成するにはパターンを穿孔する材料を、第10図の被動ローラー32の下に通過させればよい。このローラーの周囲からは、折り線14、15、28または29の両側にパターン16、30または31などを形成するべく配列されたピン33が突出している。ピン33は、その下を材料が移動する間に、断続的または連続的にウエブを貫通して押しつけられ、そして引き抜かれる。材料の穿孔の形成は、・・材料の包装材料への加工のうち実際に積層が行われる前の任意の段階で行うことができる・・・この過程で・・・たとえば第1図の袋に、開封補助機構が設けられる。」(2欄65行~3欄4行)
以上の記載を総合すると、引用例記載の「開封補助機構」は、本願考案の「開封容易部」に対応し、引用例記載の「穿孔」、「パターン」及び「折り線部」は、本願考案の「貫通孔」、「粗面部」及び「折曲げ部」にそれぞれ相当し、また、引用例記載の穿孔を施したパターン部もプラスチックラミネートフィルムの全体としては、ガスバリヤー性を備えることは、上記〈1〉或いは〈2〉に記載の目的或いは構成から推して自明であり、しかも、該プラスチックラミネートフィルムの積層を貫通する穿孔は存在しないことが十分推認できるところであるから、
引用例には、“外側プラスチックフィルムと少なくとも1枚の内側プラスチックフィルムを積層したプラスチックラミネートフィルムを矩形状に裁断して包装袋素材を形成し、この包装袋素材を折曲げ成形するとともに接合端部をヒートシールして筒状部を形成し、この筒状部の上下開口端をヒートシールした包装袋において、包装袋の折曲げ部にバリヤー性を備えた開封容易部を設け、この開封容易部は、包装袋素材の外側プラスチックフィルムの積層境面に開口する複数の貫通孔より形成した粗面部で構成される包装袋。”の考案が記載されているといえる。
(3) そこで、本願考案と引用例記載の考案とを対比すると、両者は下記の点で相違するが、その余の点では実質的に差異はないものと認める。
相違点
プラスチックラミネートフィルムの形成時に、本願考案では、ラミネート接着剤のプラスチック材料が粗面部の貫通孔に充填される構成としたのに対して、引用例記載の考案では、プラスチックラミネートフィルムの形成時における、これらの点に関する特段の説明記載はなくその構成が明らかでない点。
(4) 次に、上記相違点について検討する。
〈1〉 引用例には、折曲げ部に複数の貫通孔(穿孔)よりなる粗面部を形成した外側プラスチックフィルムに、内側プラスチックフィルムをラミネートする時に、両フィルム間の接着に際して貫通孔に如何なる作用がおよぶかについての記載は一切ないが、何れにしても、そのラミネート手法としては、一般に極く普通に実施されている従来周知のラミネート手法の技術(必要あれば参照、「包装資材データブック」、工業製品編、P292~293、「ラミネーション用接着剤」、発行 46・10・1、(株)化学工業社、)が採用され得るであろうことは十分推測できるところであり、また、その手法の採用にあたって特段の不都合を生じると解すべき特段の理由はないといえる。
〈2〉 以上の事柄を前提におくと、当該技術分野の当業者であれば、引用例のプラスチックシート同士の接着であれば、常識的にいって溶剤型接着剤を使用することが当然のように想起され、貼り合わせるべきフィルムに溶剤型接着剤を使用して、これらを重ねて加熱圧着しラミネートすることはきわめて容易に想到し得ることである。
〈3〉 さすれば、溶剤型接着剤に主として使用されるウレタン樹脂(プラスチック材料)が、両フィルム間で圧着されてその穿孔(貫通孔)に侵み込み、結果的には、粗面部の穿孔(貫通孔)がラミネート接着剤のプラスチック材料で充填されることは、フィルムの貫通孔にラミネート接着剤が侵入して充填されることは従来周知のことである(必要あれば、特開昭54-28340号公報(本訴における甲第7号証)、実開昭60-55254号公報(本訴における甲第8号証)参照)ことから、十分予測し得たことである。
(5) そして、本願考案の奏する効果は、引用例記載の考案が有する効果から当業者が予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。
(6)〈1〉 なお、請求人(原告)は、審判請求の理由において、引用例の「穿孔」は、貫通孔ではあるが穿孔の成形後は収縮して閉じており、積層境面に開口した状態ではなく、本願の「積層境面に開口する貫通孔」とは相違し、接着剤が引用例の「穿孔」に入り込むことがない旨主張しているが、前記審案したとおりの理由でこの主張は失当である。また、第4図に記載の金属ロール10と粗面形成ロール11をもって形成された「開口する貫通孔」が引用例の「穿孔」とは格別異なる構造の貫通孔であるとはにわかに断じ難い。
〈2〉 また、請求人(原告)は、審理再開申立ての理由として、引用例に記載されている技術は種々実験した結果実施不可能であり、本願考案の進歩性否定の根拠とはなり得ないものである旨主張している。そして、その実験結果を表1~表4にまとめてこれを提出(本訴における甲第4号証)し、特に、単層のフィルムおよび2~3層に積層したラミネートフィルムに、引用例第10図に示す開封補助機構を形成する方法により穿孔した状態での該フィルムの浸透液テストを行い、ガスバリヤー性がないことを立証せんとしている。しかし、引用例のフィルムは、穿孔を設けたフィルムにその穿孔を閉塞するフィルムを積層したものであり、穿孔を設けたそれ単独のフィルムでは、ガスバリヤー性のないことは常識的に十分予測し得ることである。そして、上記実験結果は上記の予測の範囲内のことであるから、これによって上記の認定判断が特に左右されるものではない。
〈3〉 したがって、請求人のこれらの主張は理由がない。
(7) 以上のとおりであるから、本件考案は、引用例記載の考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点(1)は認める。
同(2)のうち、引用例記載の穿孔を施したパターン部も「プラスチックラミネートフィルムの全体としては、ガスバリヤー性を備えること」、「該プラスチックラミネートフィルムの積層を貫通する穿孔は存在しないことが十分推認できる」こと、引用例には、「包装袋の折曲げ部にバリヤー性を備えた開封容易部を設け、この開封容易部は、包装袋素材の外側プラスチックフィルムの積層境面に開口する複数の貫通孔より形成した粗面部で構成される」包装袋の考案が記載されていることは争い、その余は認める。
同(3)のうち、その余の点では実質的に差異はないとの点は争い、その余は認める。
同(4)のうち、〈1〉、〈2〉は認めるが、その余は争う。
同(5)ないし(7)は争う。
審決は、引用例の記載事項の認定を誤り、又は本願考案の内容を誤認したため一致点の認定を誤り、かつ、相違点についての判断及び効果についての判断を誤った結果、進歩性の判断を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)
審決は、引用例記載の穿孔を施したパターン部も「プラスチックラミネートフィルムの全体としては、ガスバリヤー性を備えること」、「該プラスチックラミネートフィルムの積層を貫通する穿孔は存在しないことが十分推認できる」こと、引用例には、「包装袋の折曲げ部にバリヤー性を備えた開封容易部を設け、この開封容易部は、包装袋素材の外側プラスチックフィルムの積層境面に開口する複数の貫通孔より形成した粗面部で構成される」包装袋の考案が記載されており、「引用例のフィルムは、穿孔を設けたフィルムにその穿孔を閉塞するフィルムを積層したものであり、穿孔を設けたそれ単独のフィルムでは、ガスバリヤー性のないことは常識的に十分予測し得ることであ」り、審決が認定した相違点以外の点では実質的に差異はないと認定するが、誤りである。
〈1〉 引用例の考案者は、延伸フィルムにテンションをかけた状態で細かな穿孔あけた場合、そのテンションを解除すると、その穿孔が閉塞され、バリヤー性を備えることができるものと認識している。また、引用例を参酌した当業者も、そのように解釈するはずである。
しかし、引用例の第1図から第9図(別紙図面参照)に示す種々のパターンの穿孔を単一のウエブ1に設けた場合にガスバリヤー性のないことは、原告の実験(甲第4号証)によって確認されている。また、引用例の第11図に示す場合については、仮に製作できたとしても、接着剤は一般にバリヤー性がないので、本願考案のように外側プラスチック6のみに貫通孔9を設け、当該貫通孔9を内側プラスチック7で閉塞した場合に比較して、バリヤー性は劣る。
これに対し、本願考案の考案者は、そもそも1枚の延伸フィルムにテンションをかけた状態で細かな穿孔をあけた場合、そのテンションを解除したとしてもその穿孔が閉塞されず、バリヤー性を保てないと認識しているため、内側フィルムに貫通孔を設けていない。すなわち、外側フィルムの貫通孔は引き裂きのための導入という機能を果たし、内側フィルムは、外側フィルムの貫通孔を閉塞しバリヤー性を維持する機能を果たすものである。
〈2〉 また、本願考案が引用例からきわめて容易に推考できたか否かの判断は、引き裂き容易性とバリヤー性の両面を基準にして判断されなければならないところ、原告株式会社細川洋行の実験(甲第4号証)によれば、現在存在する代表的な延伸フィルムの各々に貫通孔を形成し、それらを引用例第11図に示すように2枚重ねたラミネートフィルムを指で引き裂いてみると、引き裂きは不可能であったから、引用例は、本願考案の進歩性否定の根拠とはなり得ない。
〈3〉 被告は、本願考案における内側プラスチックフィル0を無孔のものに限定的に解釈しなければならない理由はないと主張する。しかしながら、本願考案が属する防湿性や耐酸素透過性に優れた包装袋の技術分野においては、一般的には無孔の包装材料が用いられる。そして、かかる無孔の包装材料が複合フィルムである場合には、その複合フィルムを構成する各層もまた一般的には無孔である。したがって、本願考案の場合にも、本願考案が防湿性や耐酸素透過性の低下を防ぐという目的を有し、しかも本願明細書中の実施例においては、無孔のフィルムのみが内側プラスチックフィルムとして使用され、内側プラスチックフィルムが有孔のものであってもよい旨が積極的に記載されていない以上、内側プラスチックフィルムとして無孔のもののみを限定的に使用していると解釈するのが自然である。また、実用新案登録請求の範囲を記載する際に、無孔であることが一般的な場合には、あえて無孔等の表現をしなくても、当業者は無孔のものと解釈できる。まして、本願考案においては、易開封性を確保するために外側プラスチックフィルムの開封用粗面部に非常に密集した多数の貫通孔を設けているのであるから、このような貫通孔を完全に塞ぐための内側プラスチックフィルムとして有孔のフィルムを使用するなどという非現実的な手段は、そもそも予定されていないのである。
〈4〉 被告は、引用例記載の考案においても、積層プラスチックフィルムを用いる場合、内側プラスチックフィルムについて貫通孔を設けることが不可欠の事項ではないことは、その記載及びその技術内容から当業者に推測できた範囲内のことであると主張する。しかし、引用例においては、内側プラスチックフィルムとしてウェブ以外のプラスチックフィルムを積層することを全く想定しておらず、このウェブは少なくとも1種の延伸材料を含んでいるから、穿孔(貫通孔)を設けない限り容易にその引き裂きを開始することができない。したがって、引用例において内側プラスチックフィルムに穿孔(貫通孔)を設けることは不可欠の事項である。
被告は、引用例において引き裂き性を向上させる必要がない場合に無孔の内側プラスチックフィルムを使用することは自明であり、また、包装袋の分野において防湿性・ガスバリヤー性を必要とする場合に、易開封性を与える貫通孔を有する外側プラスチックフィルムの内側に無孔のプラスチックフィルムをラミネートすることも周知の事項であるから、この相違点は当業者が適宜変更できた範囲内のものであると主張する。
しかしながら、引用例においては、前記のとおり、開封容易性をできるだけ向上させる必要があり、内側プラスチックフィルムに穿孔を設ける必要があるものである。また、内側プラスチックフィルムが延伸フィルムを含むウェブからなり、これを外側プラスチックフィルムに重ねると易開封性が損なわれて実施不可能となってしまい、内側プラスチックフィルムを無孔とすれば易開封性がますます悪化するのであるから、被告の主張するような周知の事項に基づいて内側プラスチックフィルムを無孔とする余地はない。
さらに、被告は、内側プラスチックフィルムが延伸フィルムであったとしても、その厚さによっては、易開封性を維持することができる旨主張するけれども、延伸フィルムを積層することの主な目的の一つは、包装材料の強度を向上させることにあり、一方、易開封性を向上させる必要は、包装材料中に延伸フィルムを積層した結果として新たに発生した問題である。したがって、易開封性の向上を図るに際して、延伸フィルムを積層することによってもたらされた包装材料の強度を損なってはならないことはいうまでもない。したがって、延伸フィルムの厚さを薄くすることは、延伸フィルムを使用する本来の目的に逆行しており、当業者にとって自明の手段ではない。また、仮に当業者がこの手段を採択したとしても、延伸フィルムによってもたらされる強度をどの程度まで犠牲にし、厚さをいかなる範囲に調節すべきかということは、自明の事項とはいえない。
(2) 取消事由2(相違点についての判断の誤り)
審決は、「(引用例において)溶剤型接着剤に主として使用されるウレタン樹脂(プラスチック材料)が、両フィルム間で圧着されてその穿孔(貫通孔)に侵み込み、結果的には、粗面部の穿孔(貫通孔)がラミネート接着剤のプラスチック材料で充填されることは、フィルムの貫通孔にラミネート接着剤が侵入して充填されることは従来周知のことである(必要であれば、特開昭54-28340号公報、実開昭60-55254号公報参照)ことから、十分予測し得たことである」(甲第1号証8頁6行ないし15行)と判断するが、誤りである。
〈1〉 まず、引用例は、基本的には延伸フィルムに形成した貫通孔は閉塞すると考えているから、引用例の第11図(別紙図面参照)において溶剤性接着剤を使用して両フィルムを貼り合わせたとしても、溶剤性接着剤が穿孔に侵み込み、結果的に粗面部の穿孔(貫通孔)がラミネート接着剤のプラスチック材料で充填されるとは考えられない。
〈2〉 さらに、当業者であれば、一般に接着剤及び内側プラスチックフィルムのプラスチック材料が貫通孔に充填されれば常識的には貫通孔が修復され破断できなくなると考える傾向にある。
これに対し、本願考案は、引き裂きの導入の役割としての貫通孔の形成によるバリヤー性の減少を接着剤の侵入によって補うという積極的な技術思想を有している。この積極的技術思想は、被告の例示する特開昭54-28340号公報(本訴における甲第7号証)及び実開昭60-55254号公報(本訴における甲第8号証)にも開示されていない。
〈3〉 被告は、プラスチックフィルムに形成された貫通孔に接着剤のプラスチック材料が充填された場合に貫通孔によって獲得されたプラスチックフィルムの良好な破断性が維持されることは、当業者に周知の技術事項であるとの述べ、乙第1ないし第3号証を提出する。しかし、乙第1ないし第3号証は、本件訴訟段階で初めて提出されたものであるから、周知の事項以上の事実を証明できるものではない。
さらに、乙第1号証及び第2号証に記載されているのは、視覚的に確認できるほどに充分な長さを有する切れ目又は裂け目とでもいうべきミシン目又は切欠である。このようなミシン目又は切欠は、本願考案のような微小な貫通孔よりも遙かに大きいので、その内部に接着剤のプラスチック材料を完全に充填させることは困難である。実際、乙第1号証及び第2号証には、ミシン目又は切欠の内部に接着剤のプラスチック材料が侵入するという記載はない。また、大きさの点でも形状の点でも本願考案における貫通孔とは著しく異なるミシン目又は切欠の内部に接着剤のプラスチック材料が侵入することによるフィルムの破断性の変化を、本願考案における貫通孔の場合と同列に語ることはできない。
(3) 取消事由3(効果についての判断の誤り)
審決は、「本願考案の奏する効果は、引用例記載の考案が有する効果から当業者が予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない」(甲第1号証8頁16行ないし19行)と判断するが、誤りである。
穿孔(貫通孔)が既に閉塞していると考えている引用例の記載から、本願考案の外側プラスチックフィルムの貫通孔中に接着剤及び内側プラスチックフィルムのプラスチック材料を充填させてバリヤー性の悪化を補うという技術的効果を当業者が予測できるということはできない。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1について
〈1〉 本願考案の実用新案登録請求の範囲には、「内側プラスチックフィルム」が、無孔フィルムである旨の記載はなく、かつ、本願考案の「内側プラスチックフィルム」を無孔のプラスチックフィルムに限定的に解釈せねばならない特段の理由は、考案の詳細な説明中にも記載されていない。防湿性、耐酸素透過性の低下を防止するという明細書記載の本願考案の目的からすると、内側プラスチックフィルムは、外側プラスチックフィルムの貫通孔の内側面をこれによって塞ぐ機能を有するものであることをもって足り、必ずしも、無孔のものであることが不可欠の要件であるとはいえない。
これに対し、引用例の実施例第11図における内側プラスチックフィルムは、多数の貫通孔を有するものであるが、貫通孔の位置をずらすことによって、外側フィルムの貫通孔の内側面をこれによって塞ぐ機能を有するものである。
したがって、引用例に記載されたものの内側プラスチックフィルムは、本願考案における内側プラスチックフィルムに相当するものである。
〈2〉 仮に、本願考案における内側プラスチックフィルムが貫通孔のないものであるとしても、引用例記載の考案においても、積層プラスチックフィルムを用いる場合、内側プラスチックフィルムについて貫通孔を設けることが不可欠の事項ではないことは、その記載及びその技術内容から当業者に推測できた範囲内のことである。したがって、本願考案の内側プラスチックフィルムが無孔であるとしても、この点は、引用例に記載された考案に対する相違点であるとはいえない。
すなわち、引用例には、ピン33を刺して多数の貫通孔を設けた、内側プラスチックフィルム及び外側プラスチックフィルムを積層した実施例が記載されていることは確かであるが、これは、「包装材料に加工する際に、図5の16に示すように、1種又はそれ以上の延伸材料をパタン穿孔させてよい。」(甲第2号証訳文6頁10行、11行)、「2種又はそれ以上の包装材料に開封補助用の穿孔パタンを備えるのが望ましい包装材料又は条件の場合には」(同7頁8行、9行)とした上で、2以上の延伸材料にパターン穿孔を施す例として記載されているのであり、このことからして、引用例記載のものにおいても、パターン穿孔を施した外側プラスチックフィルムをパターン穿孔を施していない内側プラスチックフィルムに積層して包装材料形成することも可能であることが推測される。また、この第11図に記載された実施例の内側プラスチックフィルムにも貫通孔を設けたのは、積層プラスチックフィルムによる包装袋の開封補助用パターン穿孔部の引き裂き抵抗を可及的に小さくするためであり、そのほかに内側プラスチックフィルムにも貫通孔を設けなければならない特段の理由があるとはいえない。
〈3〉 さらに、仮に、内側プラスチックフィルムが無孔のプラスチックフィルムである点が相違点であるとしても、審決に特段の誤りはない。
なぜならば、引用例記載の考案における実施例において、内側プラスチックフィルムにも多数の穿孔を施したのは、当該箇所にもパターン穿孔を施すことにより、包装袋の引き裂きを可及的に容易にするためであることは、明らかである。このことから、引用例記載のものにおいて、包装袋の引き裂きを可及的に容易にする必要がない場合には、あえて内側のプラスチックフィルムにパターン穿孔を施す必要はないことは自明のことであり、また、包装袋の技術分野において、内容物保護のために、防湿性・ガスバリヤー性を必要とする場合に、易開封性を与える貫通孔を設けられた外側プラスチックフィルムの内側にラミネートされる内側プラスチックフィルムを無孔のプラスチックフィルムとすることも従来周知の事項である(必要ならば、実開昭56-3842号のマイクロフィルム(乙第1号証)、実開昭57-202970号のマイクロフィルム(乙第2号証)、実公昭44-27986号公報(乙第4号証)参照)。したがって、内側プラスチックフィルムが無孔のプラスチックフィルムである点が相違点であるとしても、この点は、当業者が適宜変更できたことである。
〈4〉 原告らは、引用例記載の考案は、内側プラスチックフィルムは少なくとも一種の延伸材料を含むものであるから、易開封性を維持するには、内側プラスチックフィルムにも貫通孔を設けることが不可欠であること主張している。しかし、引用例には、「2種又はそれ以上の包装材料に開封補助用の穿孔パタン備えるのが望ましい包装材料又は条件の場合には」(甲第2号証訳文7頁8行、9行)と記載されており、内側フィルムとして穿孔パタン(貫通孔)を備える必要のない包装材料を使用する態様が示唆されているから、内側プラスチックフィルムが少なくとも1種の延伸材料を含むプラスチックフィルムであることを前提とする原告らの主張は失当である。
さらに、引用例には、内側プラスチックフィルムの厚さ条件等について、何の限定も記載されておらず、内側プラスチックフィルムが延伸フィルムであったとしても、その厚さによっては、ラミネート後においても易開封性を維持するに、裏側プラスチックフィルムにも貫通孔を設けることが必ずしも不可欠の事項であるとはいえない。
(2) 取消事由2について
〈1〉 ミシン目又は切欠の内部に接着剤のプラスチック材料が侵入する点については、乙第1号証には、「該ミシン目6は、圧接融着された熱接着性樹脂2で圧接融着され閉止されているから、内容物の保護性能も十分保持でき、」(5頁9行ないし12行)との記載並びに第2図及び第6図の記載があり、乙第2号証では、「この透明合成樹脂フィルムにポリエチレンフィルムをラミネートまたはポリエチレン樹脂の押出しコートをして目止めをし」(4頁15行ないし18行)との記載がある。
〈2〉 引用例に記載されたものの貫通孔は、完全に閉塞された孔ではない。すなわち、引用例に記載されたものの貫通孔は、プラスチックフィルムを移動させながらピン33をこれに貫通させ、ピン33をプラスチックフィルムから引き抜いて形成するものである。また、プラスチックフィルムに多数のピンホールを形成するための手段として上記の手段は周知慣用のものであり、このようにして形成されたピンホールは、外観上は閉じられているが、完全に閉塞された孔ではないことは常識的に推測できることである。また、引用例に記載されたものに限って、その貫通孔は完全に閉塞されたものであると解すべき特段の理由は引用例の記載にはない。むしろ、このものの貫通孔が完全に閉塞されたものでないことは、内側プラスチックフィルムにも貫通孔を設けた場合は、包装袋の大気遮断性を損なわないために、外側プラスチックフィルムの貫通孔が内側プラスチックフィルムの貫通孔と重ならないように、その配置に留意することが重要である旨が記載されていること(甲第2号証訳文7頁8行ないし12行)からも十分窺い知ることができるところである。
〈3〉 易開封性の積層プラスチックフィルムにおいて、接着剤のプラスチック材料が貫通孔に充填されても、貫通孔により獲得された易開封性は、必要とされる程度には維持されるということは、従来より当業者に周知の技術事項である(必要なら、実開昭56-3842号のマイクロフィルム(乙第1号証)6頁9行ないし12行、実開昭57-202970号のマイクロフィルム(乙第2号証)、特開昭62-52065号公報(乙第3号証))。
なお、審決が甲第7号証及び第8号証を周知例として提示した理由は、「(フィルムを重ね合わせラミネート接着剤を使用して加熱圧着ラミネートする場合に、)フィルムの貫通孔にラミネート接着剤が侵入して充填されること」の周知性を示すためであり、バリヤ性の向上や破断性の維持の効果については、当業者の有する通常の知識である技術常識ともいうべき周知の技術事項(この中には、当然、乙第1ないし第3号証で立証する周知事項も包含される。)を前提として判断されているものである。
なお、乙第1ないし第3号証は、審決での予測・推論の前提となった、当業者の有する技術常識ともいうべき周知の技術事項を証明するためであり、本訴で提出することができる。
〈4〉 したがって、引用例記載のものについて、接着剤を介在させて内外両プラスチックフィルムを積層するときは、接着剤が外層の貫通孔に入り込んで、これを閉塞するが、これによって易開封性が、格別阻害されないことは、当業者がきわめて容易に予測し得たことである。
(3) 取消事由3について
本願考案の有する効果は、引用例に記載の考案の構成から当業者が予測できる程度のものである。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願考案の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
そして、審決の理由の要点(2)(引用例の記載事項の認定)のうち、引用例記載の穿孔を施したパターン部も「プラスチックラミネートフィルムの全体としては、ガスバリヤー性を備えること」、「該プラスチックラミネートフィルムの積層を貫通する穿孔は存在しないことが十分推認できる」こと、引用例には、「包装袋の折曲げ部にバリヤー性を備えた開封容易部を設け、この開封容易部は、包装袋素材の外側プラスチックフィルムの積層境面に開口する複数の貫通孔より形成した粗面部で構成される」包装袋の考案が記載されていることを除く事実、同(3)(一致点、相違点の認定)のうち、その余の点では実質的に差異はないとの点を除く事実は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告ら主張の取消事由の当否について検討する。
(1) 取消事由1について
〈1〉 前記説示の本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲)の記載によれば、本願考案における内側プラスチックフィルムは、無孔のものであると認められる。
被告は、本願考案の実用新案登録請求の範囲中の「内側プラスチックフィルム」を無孔のプラスチックフィルムと限定して解釈しなければならない特段の理由ない旨主張するが、本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲)によれば、内側プラスチックフィルムが有孔のものであってもよいとの記載はなく、しかも、外側プラスチックフィルムについては複数の貫通孔を形成することが記載されているにもかかわらず、内側プラスチックフィルムについては孔を形成することにつき何ら記載されていないこと、並びに、甲第3号証の1ないし4に徴すると、本願考案の詳細な説明にも、その実施例として内側プラスチックフィルムには無孔のフィルムのもののみが示され、内側プラスチックフィルムが有孔のものであってもよいとの記載は全くなされていないことにかんがみると、本願考案は、内側プラスチックフィルムが無孔のものであることをその要旨とするものと認めるべきである。この認定に反する被告の主張は採用できない。
〈2〉 前記説示の引用例の記載事項によれば、引用例には、「開封補助用の穿孔パターンを2種以上の材料に設けるのが望ましい包装材料または条件では、穿孔パターンの位置を材料の個々の穿孔が並ぶのを防止するように近接させることにより、複合材料の必要とされる製品保持つまり大気遮断性を確保する。・・・第11図には・・・ウエブAパターン16の穿孔はウエブBのパターン16の穿孔の間に位置しているので、・・・ウエブBがウエブAの穿孔を閉鎖し、逆にウエブAがウエブBの穿孔を閉鎖している。」、「ウエブ1は少なくとも1種の延伸材料から構成されているが、複数の積層延伸材料の積層ウエブ、または・・・、および他の包装材料と積層したものから構成することもできる。」と記載されている。上記「他の包装材料と積層したものから構成することもできる」との記載は、引用例に記載の考案におけるウエブが、1種の延伸材料と他の包装材料とを積層した積層プラスチックフィルムである場合を包含し、上記「開封補助用の穿孔パターンを2種以上の材料に設けるのが望ましい包装材料または条件では、」との記載は、引用例に記載の考案においては、積層プラスチックフィルムの内側プラスチックフィルムについて貫通孔を設けることが不可欠の事項ではなく、内側プラスチックフィルムに貫通孔のないものも包含することを意味していると解せられる。引用例に記載の考案が第1図ないし第9図及び第11図に図示されたものに限られることを前提とする原告らの主張は採用できない。
以上認定のように引用例に記載の考案が内側プラスチックフィルムに貫通孔のないものを含む以上、引用例記載の穿孔を施したパターン部も「プラスチックラミネートフィルムの全体としては、ガスバリヤー性を備えること」等との審決の認定に誤りはないと認められる。
〈3〉 原告らは、甲第4号証の実験結果に基づき、引用例第11図のものが手指の力で切り裂き不能であると主張する。
しかしながら、引用例に記載の考案は、上記〈2〉に認定のとおり、1種の延伸材料と他の包装材料とを積層した積層プラスチックフィルムを含むものであり、内側プラスチックフィルムが延伸フィルムを含むウェブからなることを前提とする原告らの主張は採用できない。そして、前記甲第4号証の実験結果も、上記1種の延伸材料と他の包装材料とを積層した積層プラスチックフィルムのものが切り裂き不能であることを示すものではないから、切り裂き不能をいう原告らの主張は採用できない。
〈4〉 したがって、原告ら主張の取消事由1は理由がない。
(2) 取消事由2について
〈1〉 審決の理由の要点(4)〈1〉及び〈2〉の事実は、当事者間に争いがない。
そうすると、引用例に記載の考案において、溶剤型接着剤が両フィルムの間で圧着され、引用例の外側フィルムの穿孔(貫通孔)に該接着剤のプラスチック材料が侵み込み、穿孔を充填することは、当業者にとって十分予測し得たことと認められる。
原告らは、引用例は、基本的には延伸フィルムに形成した貫通孔は閉塞すると考えているから、溶剤性接着剤を使用して両フィルムを貼り合わせたとしても、溶剤性接着剤が穿孔に侵み込み、粗面部の穿孔(貫通孔)がラミネート接着剤のプラスチック材料で充填されるとは考えられない旨主張する。
確かに、甲第2号証によれば、引用例明細書には「パタン16の微細な穿孔は、材料の一部を除去するのではなく、わずかに拡張することによって得られる。この穿孔は、材料の連続状態を一時的に分離し、そして材料を離して該材料が穿孔を実質的に再充填することによって形成される。」(訳文6頁16行ないし19行)と記載されていることが認められるが、分離された部分の組織が破壊されたままであることに変わりはないのであるから、溶剤型接着剤を使用してフィルムを重ねて加熱圧着すれば、充填された穿孔は再び押し開かれラミネート材料が侵入するものと認められる。また、前記説示のとおり、引用例明細書には、「開封補助用の穿孔パターンを2種以上の材料に設けるのが望ましい包装材料または条件では、穿孔パターンの位置を材料の個々の穿孔が並ぶのを防止するように近接させることにより、複合材料の必要とされる製品保持つまり大気遮断性を確保する。・・・第11図には・・・ウエブAパターン16の穿孔はウエブBのパターン16の穿孔の間に位置しているので、・・・ウエブBがウエブAの穿孔を閉鎖し、逆にウエブAがウエブBの穿孔を閉鎖している。」と記載されているが、このように穿孔が重ならないようにその配置に留意していることは、引用例に記載の穿孔も、外観上は閉じられているが、完全に閉塞された孔ではないことを裏付けているものと認められる。
したがって、この点についての原告らの主張は採用できない。
〈2〉 そして、乙第1号証(実開昭56-3842号公報)によれば、同号証記載の考案は、「内層が熱接着性樹脂2である包装本体4に開口用ミシン目6を穿設し、該ミシン目6を加熱加圧により、熱接着性樹脂2で圧接融着せしめてなる開口機構付包装袋。」を実用新案登録請求の範囲とする考案であるが、考案の詳細な説明には、「該ミシン目6は圧接融着された熱接着性樹脂2で圧接融着され閉止されているから、内容物の保護性能も十分保持でき」(5頁9行ないし12行)、「外層膜1には穿設された開口用ミシン目6が残存するから、該ミシン目6を活用しての開口適性も良好に維持され」(6頁9行ないし12行)と記載され、図面の第2図及び第6図には、ミシン目6内に熱接着性樹脂2が侵入した様子が示されている。
また、乙第3号証(特開昭62-52065号公報。昭和62年3月6日公開)によれば、同号証記載の発明は、「少なくとも基材層と接着層とを有するフィルムからなり、シール部を有するプラスチック製密封袋において、シール部の基材は貫通した貫通傷痕を有し、該貫通傷痕はその一部又は全体が接着層でふさがれていることを特徴とする易開封性密封袋。」を特許請求の範囲とする発明であり、発明の詳細な説明には、「欠落を生じず、異物が混入せず、フィルムの実用上の強度を低下させず、かつ任意の部位から手指の力で開封することのできる理想的な貫通傷痕を有する密封袋」(2頁左上欄18行ないし右上欄1行)を構成することを課題とすることが記載され、「第2図に示すように最も引裂き抵抗の大きい基材層に設けられた貫通傷痕内に、溶融した接着層が侵入し基材層の貫通傷痕をほとんどふさいでいる。したがって、貫通傷痕のかなりの部分がふさがれているため密封袋の強度の低下を最小限にとどめることができる。」(3頁左上欄6行ないし12行)と記載され、図面の第2図には、接着層が貫通傷痕に侵入した様子が示されている。
これらの事実、特に本願考案の出願の約7年前に公開された乙第1号証に既にその旨の記載があることを考慮すると、易開封性の積層プラスチックフィルムにおいて、接着剤のプラスチック材料が貫通孔に充填されても、貫通孔により獲得された易開封性は必要とされる程度には維持されるということは、当業者に周知の技術事項であったと認められる。したがって、引用例に記載の考案においても、接着剤を介在させて内外両プラスチックフィルムを積層するときは、接着剤が外層の貫通孔に侵み込んでこれを閉塞するが、これによって易開封性が格別阻害されないことは、当業者がきわめて容易に予測し得たことと認められる。
〈3〉 原告らは、乙第1号証等に記載されているのは、視覚的に確認できるほどに充分な長さを有する切れ目又は裂け目とでもいうべきミシン目又は切欠であり、その内部に接着剤のプラスチック材料を完全に充填させることは困難である、また、大きさの点でも形状の点でも本願考案における貫通孔とは著しく異なるミシン目又は切欠の内部に接着剤のプラスチック材料が侵入することによるフィルムの破断性の変化を、本願考案における貫通孔の場合と同列に語ることはできない旨主張する。
しかしながら、前記説示の本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲)も、開封容易部を形成する貫通孔の大きさについて何ら規定していないものであるから、乙第1号証等における気密性を保持しかつ易開封性も保持するとの技術内容が、本願考案について当てはまらないと解することはできない。
〈4〉 したがって、原告ら主張の取消事由2は理由がない。
(3) 取消事由3について
以上に説示したところからすると、原告ら主張の本願考案の外側プラスチックフィルムの貫通孔中に接着剤のプラスチック材料を充填させてバリヤー性の悪化を補うが、易開封性を保持するという技術的効果は、引用例に記載の考案の構成から当業者がきわめて容易に予測できる程度のものと認められる。
したがって、原告ら主張の取消事由3は理由がない。
3 よって、原告らの本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
別紙図面
〈省略〉